Reminis;Chive

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(Reminiscence ×Archive)


Sh.r-Y(Welcome to Reminis;Chive / Clock)

Sβ(And,Forever)


Illustrator:maruido


序章


ある場所に幾千年もの間ずっと同じ場所で、今もなお動き続ける時計塔があった。

その時計塔を代々見守ってきた時計技師の一族によって時計の針は止まらずに進み続ける。

時計技師レミニはその一族を継ぐ娘として毎日、母の仕事である時計塔の修理を手伝っていた。

だが、彼女は毎日同じ場所を見回って修理していくことに飽きを覚え、ほとんど受動的に行っていた。

「小さい頃はあんなに好奇心旺盛ではしゃいでいたこともあったのに、今じゃ見る影もなくなっちゃったね・・・。」

「だって、お母さんもこんなに大きな建物を周るのも結構大変そうじゃん。私も手伝うよ。」

「親孝行なのはいいんだけどね。もうちょっと元気に取り組んでほしいものなんだけどね。」

そんなに元気なさそうに見えるのかな。流石にそれは直していかないとな・・・。

「そういえば、あなたもうすぐ15歳になるじゃない。」

「そうだね。」

「それじゃ、その日になったら例の区域の奥に行ってきなさい。多分今のあなたにはきっといい刺激になってくれると思うわ。」

「いい、刺激になる・・・?」

あの奥にはなにがあるのだろうか?


彼女は15歳になるまでは入ってはいけないという区域があった。

ようやく彼女が15の年になった日に母から、その区域の先にある部屋へ行くように言われた。

建物の破損部分などの修理を終わらせ、その通路の先へ進むと母の言っていた通り一つの部屋があった。

その部屋はきちんと手入れはされているがどこか重々しく、入るのを一瞬ためらってしまうほどだったが、彼女は、その部屋に惹かれるように中へと歩を進めた。

中に入ると、足元が見えないほどとても薄暗くここが先ほどの部屋なのか判断がつかないほどであった。

ようやく目が暗闇に慣れてくると彼女は不思議な感覚に陥った。

その光景にひどく既視感を覚えたのだ。一度もこの部屋へは来たことがなかったのに。

耳を澄ましてみると、近くで時計の針の音が聞こえてくる。

その時計の長針と短針の位置が合わさった時、薄暗かった部屋に突如変化が訪れ、なにやら歴史書なんかで見るような古風ある街並みが彼女の視界に入ってきた。


第二章


「ここは、どこだろう?」

周りは畑だらけで耕している人が数人いた。

「あの~、すみません!ここはどこなんでしょうか?」

彼らはこちらの声が聞こえていないのか、時々お互いに会話を挟みつつ作業を続けていた。

もう一度声をかけてみようと大きく息を吸ったとき、頭の中に突然誰かの声が聞こえた。

「やめたまえ。彼らに君の声は聞こえていない。ここは、先ほどまで君がいた時計塔の心臓部である。あの部屋に蓄積されていた幾千年分の記録を辿っているだけの単なる回想世界だ。」

えっ!?今の誰!?どこから声が聞こえてくるの?

「君の頭の中に直接届くようにしているのだ。ただ、君には姿は見えないだろうがな。それと私はこの時計塔の膨大なデータを管理する存在である。」

「そうなんだ。見たところさっき私がいた時計塔とは全然雰囲気が違うんだけど本当にここは時計塔の中なの?」

あのごつごつとした石のようなレンガで作られた建物内だとは思えないし、まず見えている景色が屋内ではなく、屋外の景色なので戸惑うのも無理はない。

「正確に言うならばここは時計塔に蓄積されている膨大なデータの中だ。これまで時計塔が見守り続けてきた世の変移と歴史の象徴ともいえる。」

畑を耕している人たちはみな大変そうに作業しながらも、仲間で協力し助け合っていた。みんな生き生きとしていた。

「このころ、この国はまだよかったのだ。男は皆一丸となって畑を耕し、女は家で家事をして男の帰りを待つ。何も争う必要のない平和な時だった。」

そんな時だった。

『すまねえ。もう今日の分の飯がなくなってしまったんだ。悪いが今日も少し分けてくれねえか?今度まとめて返すから。』

『またかよ。お前この前もそういってなかったか。いつになったら返してくれるんだ。』

その年は雨が全く降らず、例年であれば実っていたはずの作物は干からびてとても満足いく収穫量ではなかった。

それが翌年も、そのまた翌年も続き、それまで食料を貯蓄していた者としていなかった者との差ができてしまった。

「そこまでいったら話は簡単だ。貧民層は今日の飯を調達するために富裕層からは奴隷のように扱われ、ようやく手にした食料で家族を養う。

そんな時間が何代も続いた。最初のうちは甘んじていた貧民層は次第に富裕層に対して反感を抱き、果ては貧民層による一揆へと発展し、国は亡びた。」

目の前で繰り広げられる争いの惨状たるやひどいものだった。

「やめて!争いなんかやめて!」

どれだけ叫んでも彼らには聞こえないし伝わらないのはわかっているはずだが、そう叫びださざるをえなかった。

それからも目も当てられないような光景を目の当たりにした。

ある国は王の独裁による政治腐敗で崩壊、ある国は他国の侵略による崩壊、ある国は自然災害による国の崩壊。

上げればきりがないが、しかしどの国も希望で始まり絶望で終わっていた。

「そうだ。人間の社会とはいつも希望と絶望を繰り返して生きている。」

それはそうだ。だからこんな風に人同士で傷つけあったりして争うんだ。でも私はそれだけが世界の全部ではないことも知った。

確かにどの国も希望で始まり絶望で終わっているが、それと同時に希望も絶望の中で生まれ、それが広がっていく。

「気づいたようだな。そう、先ほども言ったが、人間の社会とは常に希望と絶望が繰り返されている。この世界のどこに至っても同じだ。どんなにつらいことが起きたとしてもいつかはその先に希望を見出すことができる。君もつらいことはたくさんあるだろう。これから先もそういった場面に遭遇することもあるだろう。でも必ずどこかに君を救い出してくれる何かがあるはずだ。」

そうだ。小学校に通っていた時、クラスメートに意地悪をされていじけていた私に声をかけてくれた先生の一言、あるいは学校の友達と喧嘩した時の母に言われた一言だとか。

あの時はつい感情的になってしまって他の事なんて何も考えられなかったけど、今となってはさっきの光景に比べれると全然かわいいものだと思えてくる。

それに・・・。

「私さ、今までこの時計塔でのお仕事、何度も同じ場所を歩いておかしな部分見つけたら修理するっていう、毎日の繰り返しがすごくつまらなく感じてさ。何度もやめそうになった。それでもやめなかったのは、自分はものすごくつまらない気持ちでやっているのに対して、お母さんは毎日すごく楽しそうにお仕事しているんだ。そして、そんな母に対して無意識にどこかで引け目を感じていたんだと思う。」

「そうか、でも今は違うんじゃないのか?」

「うん。確かに今でもお母さんのためっていうのもあるし、それも大事にしようと思っているけど。でもそれ以上に今生きていられることを楽しんで生きていきたいと思うんだ、お母さんのようにさ。だってそうしないとこの時計塔をはじめこの世界を一生懸命作り上げてくれた昔の人達にも顔向けできなくなっちゃうものね。」

「そうか、君はそういう思考なのか。つくづく人間とは面白い。さあ、もうここもそろそろ終わる時間だ。これからも精進することだな。」

「えっ!?そういう思考ってどういうこと!?ちょっと!」

こうして私は一層仕事に熱が入るようになり、お母さんに対しても引け目なんて感じずに接するようになった。


終章


「お母さーん!今日もまた時計塔行くのー?」

「そうよ!私たちをずっとずっと見守ってくださっている大事な塔なんですもの。ちゃんと綺麗にしないとね。」

あれから私は、時計塔について調べるために来ていた男性とお付き合いし、最終的にその人と結婚をして一人の娘を授かった。

そして例の部屋に関しても以前の私の時と同じように15歳になるまで立ち入らせないようにした。

母も、自分の母からそういう風に言われていた、と言っていたので多分このままでいいんだと思う。

あれ以来あの部屋に行っても同じことは起きなかった。時計塔の妖精さんも現れることもなかった。

「さ、今日も行くわよー!」

ただ、私と大きく違っていたのは・・・。

「あ、私今日もパスー!今日はこのゲームしないといけないから!」

「あんた、昨日、一昨日と町に行くっていって出ていったじゃないの!それで今日はゲーム?流石に遊びすぎよー!」

時計塔のお手伝いすらしてくれないことだった。

時計塔の妖精さん!助けて!

こんな日常がすぐそばで繰り広げられていても時計塔の針は変わらず今日もずっと動き続ける。

明日も明後日も止まることなく永遠と・・・。


この物語はフィクションであり、現実世界の出来事等とは一切関係ありません。