nightmare star

nightmare star


mee


Illustrator:井戸から出てきた丸楠


 目の前に壁がある気がした。


 きっとこれはただの思い込みだ、と最初は思っていたが、確かに自分の目の前に高い壁がある気がした。

 通説だが、人というものは困難を乗り越えて強くなるという。そこでふと考えてみたのである。強くなれるならば、この壁を打ち崩してみようじゃないか、と。

 明らかに自分の力では歯が立たないであろう物に対して、どうしてこのような決意を固めようとしているのかと問われると、答えようがない。きっと人間というものは、自らが弱きものとして隔てられていると気が付いたとき、外にある世界を見てみたくなるものなのだろう。


 壁に挑む自分に問うた。


 もし思い込みのままで済ませたとしたらどうなっていただろうか。もしかしたらそのままでいた方が気分はよかったのかもしれない。外に何があるのかを知るといったところで、それが得になるという保証が必ずしもあるわけではないし、別に人間は強くなければならないというルールがあるわけでもない。

 それでも、何があるかは分からないけれども、可能性を捨てて生きることは人間らしさにふたをしてしまう選択ではないかと考えた。自分なりの理論としては、希望を求めて世界を広げたいと願うことはやはり価値のある行動に違いないのだ。

 この世界を隔てている壁は、誰しもがいつでもどこでも出会うかもしれない物だ。その事実に気が付かないと、壁に囲まれた狭い世界の中で一生を終えることになる。それもある意味で幸せな一生かもしれないが、とてももったいない話なのだ。


 そんなわけで、壁にもう一度宣戦布告をする。


 必ず自分は“壁の向こう側”にたどり着くのだ、と。