Schizophrenia

Schizophrenia


Certain


Illustrator:maruido


やあ。


珍しいお客様だね。

ここに来る人というのは、なかなかの物好きだと思うよ。


まあ、そこでずっと本を『読んで』る私が言えた話ではないけれど。


何か飲み物でもどう?

紅茶なら用意できるけども・・・。


ここがどこだって?


そんなことどうだっていいじゃないか。

・・・と言いたいのだけど、私も知らないんだ。


気付いたらここにいて、

気付いたら本を『読んで』る。


私の始まりはここで、

私の終わりもきっとここなんだろうね。


一冊の本として、ここにしまわれるのもいいね。

なんて。


・・・話が逸れちゃったね。


ん?

私かい?


そうだな・・・何と呼んでくれても良いけど・・・。

うん、「ラスプ・ティー・ダガー」とでも名乗っておこうか。

よく読む本のタイトルなんだけど。

縮めて「ティー」でも良いよ?


・・・あれ、変な名前って思った?


そっか・・・。


あの、もし時間があるんだったら、君も『読んで』みない?


確かそんなに長い話ではなかったような・・・。


あれ、どこに置いたっけな・・・。


あ、あったあった。


この本なんだけど、どう?


大丈夫だよ、多分お湯が沸くまでには『帰ってこれる』から。


最初は慣れないかもしれないけど・・・。


あはは、ありがとうね。


じゃあ、


行ッて*っ***


―――――――――

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>> 4657322


Checking point..........[OK]


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Observed!

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Are you sure? ...... Yes

......

Unzipping File ...... done.

―――


セリオットとアイニールは二人とも同じ場所に暮らしていた。

仲睦まじい様子か、と言われれば何とも言えないところであるが、

二人は互いに認め合っていた。


相手の不満点は自分が解決する。

そういったやり方ではあるが、均衡を保っていた。


「まただ」


そうセリオットは独りごちた。


「今度という今度は懲らしめてやらねえとな」


懐中電灯と鈍器を手に、セリオットは若者たちの所へ向かうと、


「お前ら、夜中に人の敷地に上がり込んで何してやがる」


と、若者に青白い目を向けるのだった。


しばらくして、周りに若者がいなくなったことを確認した後、

セリオットは共同寝室に戻った。


「ふあ・・・またなの?」


寝ぼけ眼のアイニールがセリオットへ訪ねる。


ほぼ毎夜のことだが、

今夜こそは違うと願って。


「ああ、まただ。飽きない奴らだ」


セリオットのその言葉を聞いた瞬間に、

まるで失望したかのように、アイニールのまぶたはすとんと落ちた。


こういった日々を、彼ら/彼女らは送り続けている。

彼ら/彼女らは、誰であっても家に上げることはなかった。

例えそれが育ての親であっても、

友人であっても、

変わりはなかった。


差別なく拒絶する。

ただそれだけだった。


そのためか、隣近所の井戸端会議では、

「何か事件の現場になっている」

「怪しい実験を行っている」

という話が広まるようになった。


そうすると、必然的に出没するのが、

「肝試し」を行おうとする若者である。


先ほどセリオットが追い払うこととなった若者もその一部だ。

最近は、昼間にも来るようになり、

今度はアイニールが誰も入れないように、

玄関口での応酬を始めたという。


家に上げない理由は様々ある。


例えば、潔癖症、もしくは神経質である場合。


椅子の場所、本の位置、果ては暖炉の薪に至るまで、

すべてきっちりしていないと気が済まないということである。


しかし、セリオットはどちらかと言えば片付けは苦手な方で、

アイニールは「手の届く所にあれば楽」という考えの持ち主だった。


故に、よっぽどのことが無い限りは、

他人に少し家具や調度品を触られた程度で取り乱したりはしないだろう。


次に、噂が本当だという場合。


本当に事件が起きていて、

もしくは実験が行われているということとなる。


だが、近所から異臭がするという騒ぎも無ければ、

彼ら/彼女らが購入したものは実験に使えるような高尚なものではなく、

瑞々しい野菜や細々した日用雑貨など、

とてもありふれたものだった。


故に、これも「そういった簡易なもので何かをしている」場合にのみ成立するが、

私の知る限り、そうしたものは存在していないはずだ。


そして、最後に、単純に家が汚い場合。


家が足の踏み場もないので、

体裁上みっともないので上げないということだ。


―私は、これが一番あり得る線だと思っている。


前述の通り、二人はあまり積極的に片付けをしない。

あまり物がないので、即ゴミ屋敷とはならないものの、

人を入れるには少し恥ずかしい程度に家が汚い可能性は十二分にある。


つまり、

「ただ家が汚いだけなのに、若者が面白がって群がっている」

というのが実情だ、と私はにらんでいる。


幾度となく若者たちが「肝試し」へとやってきて、

二人とも疲弊していた時のことだった。


「お前ら、本当になんでこんな所にわざわざ入ろうとするんだ」


うんざりした顔でセリオットは若者に問う。


が、


「それが流行りだしな」


若者はそういって仲間とゲラゲラと笑った。


若者達にとっては、セリオットとアイニールの反応は、

ただの「エンターテインメント」だったのだ。


一過性の「流行」として使いつぶされるだけの、

ただそれだけのために、

二人は疲弊していったのだ。


セリオットは日頃からイライラするようになり、

アイニールは居もしない誰かに怯えるようになった。


そうであったとしても、

若者達、ひいては近所の井戸端会議では、

これが「共有できる流行」であり、エンターテインメントなのだ。


「俺らの事を考えたことあんのか」


「はあ?知らねーよバカ、

 むしろ話題にしてもらってんだから感謝しろよな」


若者の一人がそう言うと、賞賛の拍手が沸いた。

よく言った、まさしくそうだ、

など反応は様々だが、

おおよそ若者達からは、

セリオットとアイニールは滑稽な道化師に見えていることだろう。


自分のさじ加減一つで慌て、怒り、苦しむ。

その様を見ることに、若者達は愉悦を感じている。


自分は圧倒的に正しく、

正しくないモノはどう扱っても良い、とでも言わんばかりだ。


その後、勝手に帰っていった若者達からは、

夜中とは思えぬほどの笑い声が響き、

近隣住民より苦情がセリオットとアイニールに寄せられるのだった。


「俺はもう我慢できねえ。

 あいつらを野放しにしてたまるか」


「気持ちはわかるけど、乱暴はダメよ」


赤黒いアイニールの目が、セリオットを見据えた。


「こっちが正しいこと言ってるはずだろ。

 勝手に押しかけて来やがって。

 そのせいでお前も俺もボロボロだ」


「・・・そうね」


憤るセリオットと、諦めたようなアイニール。

この時のアイニールは、もはや以前のように笑わなくなっていた。


「でも、こちらが何かすれば、それこそネタにされるわよ」


「それもそうだが、何もしないわけにはいかねえだろうが」


だん、とコップがテーブルを叩いた。


「何かをした瞬間に、こちらが『悪』になるの。

 だから海が凪ぐのを待つしかない」


湯気が立つコップを、アイニールはゆっくりと傾けた。

まるで、自分でない誰かの事を話しているかのように、

淡々と言葉を紡ぐ。


「・・・ああ、そうだな。

 ・・・クソッ、ままならねえもんだ」


セリオットはぎりりと音を立てて、

口を真一文字にした。


その日は、若者は現れなかった。



しばらくした後、近所の井戸端会議では、

以下のような話題が大半を占めることとなった。


「えっ?あの人の息子さんが?」


「向かいのあの人の娘さんもそうらしいのよ」


「あらまぁ、やっぱりあそこなんかやってるのよ」


事の発端は、敷地に乗り込んだ若者が一斉に怪我や病気に罹ったことだった。


怪我や病状そのもの自体については、

さほど大きいものではないのだが、

その数が膨大であった。


さらに一斉にそれが起こったこと、

そしてその若者に共通する、

「セリオットとアイニールの家の敷地に侵入した」

という事実が、

「セリオットとアイニールによる報復説」

を事実らしく脚色し、広まっていったのだった。


勿論、二人は何もしていない。

むしろ、以前より若者が来なくなったため、

安心した生活を送っているようだった。


強いて言えば、近所の人達が大げさに二人を避けるようになったのが、

アイニールにとって苦痛だったと思われる。


この日より、何もせずとも、

二人は『悪』として扱われ、

今度は指嗾でなく、

忌避の対象となったのだ。


これは呪いだ、と言う人も居れば、

ウイルスをばらまいた、と二人を疑う人も居た。


そして、この状態でなお、

「呪いが本当か検証する」などと標榜し、

二人の家に無理やり入ろうとする若者達が居る。


この若者達にももれなく災難が降りかかった。

挙句、怒りが頂点に達したセリオットに殴られ、

怪我を負った、と警察に届けた若者もいたという。



そうして、図らずも二人はセンセーショナルな話題を提供し続けたが、

徐々に大衆の興味は薄れていき、

井戸端会議の議題は「結婚しない娘の話と降り続く雨の話」に置き換わっていた。


そうであっても、忌避の感情だけは、事実としてしつこく残っていた。


腫物のように扱うのは、

この街での「暗黙の了解」のようなものになりつつあった。


「・・・ただいま」


「おかえり、どうだった?」


「ダメだ。こっちを見るなり店を閉めやがった」


「・・・そっか」


このころの二人は、

汽車で2駅ほどのところに買い物に行っていた。


何しろ、忌避感情が残っているこの街ではもう何も売ってくれないのだ。


ただし、噂は口伝てに広がり、

尾ひれをつけた上で、

大きくうねりをあげていた。


関わると何か起こる。

関わった人間は呪われる。

関わろうとした人間は死ぬ。


存在しない「彼ら/彼女らの虚像」に怯え、

忌避の輪が広がる。


つまるところ、「エンターテインメント」として。

例えるならば、お化け屋敷のような。

そんな位置づけに、2人は収まったのだった。



「・・・俺たちにどうしろって言うんだろうな」


「『お前らは熱された鉄板の上で踊り狂え』って事なんじゃないの?」


「はは、かもしれんな」


ため息をつきながら、セリオットは椅子に腰かけた。

雨は、ざあざあと降り続いていた。


アイニールとセリオットは、

この後もただただ耐えた。


腫物扱いされる日々。


しかし、何の事はない生活。

凪いだ海を行く生活。


その海は以前のような波濤でなく、、

「何もない」という方法で2人を飲み込もうと画策したのだろう。


ただ、それには1つ大きな誤算があった。


飲み込まんとする人数が2人であったが故に、

互いが互いを励ます事や、

互いが互いを受け入れている事を計算に入れていなかったのである。


そのため、1人でただ漫然と凪いだ海に立つ者よりも、

飲み込まれるスピードは遅かった。


彼ら/彼女らは、疎まれながらも生きていた。

その様は、まるで完成した1つのメビウスの輪を見ているかのようだった。



そうして幾年が過ぎたある日、

忽然と2人の姿が消えたのである。


そうなると、また「エンターテインメント」として、

必然的に、2人を面白おかしく取り上げようとする試みがなされる。


『あの2人の家の真相とは』


そう銘打たれた特集が、雑誌の記事の企画の1つとして、

立ち上がった。


企画者は、あるオカルト雑誌の編集長だった。

かつてあの家に近づき、へらへら笑っていた若者の1人は、

責任ある立場へと収まったのだ。


「かつてあの家に私は行ったことがあってね」


編集長は自慢げに語る。


「いつも変な野郎に追い返されてたんだよ」


非はこちらではなく、向こうにある、と。


そうして結成された企画チームは、

『家の中を突き止める』

『面白そうな物があれば持っていく』

『金目の物は売る』

という3つの目的の元、

かの家を目指した。


「ボロボロだな」


「風化してるんだろう」


そう言いながら、

一団は家へと上がり込んでいく。



「・・・なんだ?これは」


チームの1人が、妙な所に置かれた箱を見つけた。


「・・・とりあえず開けてみるか・・・」


そう言いながら、箱を開けると、

そこには、ビリビリに破かれた紙が入っていた。


何かが書いてあるようだが、

判読できない。


それほどに、ビリビリに破かれていた。


その青年は、しばらくチームに伝えるべきか考えたが、


「ただのゴミだろう」


と結論を出し、箱をそのまま投げ捨てた。


結果床に散らばる紙は、青年に何かを訴えるようだったが、

どこからか吹き抜けた風により、なす術もなく消えていった。


その後、この企画については、

あまりにも面白みがなく、

また金目の物も面白そうな物もなかったため、

編集長の判断で、

雑誌の当該記事のタイトルが変更され、発売されることとなった。


その雑誌の記事は、オカルト雑誌としては珍しく、

デマを流すことによってどのような苦痛があるか、

それを詳細に、かつセンセーショナルに書き記したことで話題になり、

異例の売れ行きを見せたという。



『2人の家についてのデマ ~行き過ぎた噂~』


2人の家、という噂を聞いたことがあるだろうか。

これは、「家の敷地を跨いだ者に腹を立て、

様々な厄災を起こした2人が居る」というものだ。


どのような厄災であるかは噂により様々だが、

病死、転落死、作物の凶作など、ものものしいものが並ぶ。


しかし、この噂は当雑誌ライターの調査によると、

まったくのガセであることが判明した。

つまりこの噂は事実無根であると言える。


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・


さて、この噂がもたらした悲劇は、当誌を編集する上でも、

そしてこうした噂を調査する上でも、

十分に考えなければならない問題であるといえる。


本当にそれが真実かどうかを検証するとしても、

方法が誤ったモノ・真摯でないモノでは意味がない。


この噂のように、「エンターテインメント」として、

他人の人生を無責任に消費することもあるのだから。


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――――――――――――――


やあ。


お帰り。


どうだった?


面白い話でしょ?


『読んだ』からわかると思うけど、

最後の方は様々な解釈があるんだよね。


一番好意的な見方は、

「編集長があの時の自分を後悔した」

っていうものなんだけど。


君はどう思うかな?


紅茶でも飲みながら、聞かせておくれよ。


あはは、まあお話だからね。

こんなこともあるさ。


でも数ある本の中では、私はこれが好きなんだ。


まあそれも『解釈』の違いっていうのかな。


その辺りものんびりお話したいんだ。


ほら、お湯が沸いたよ。


お茶請けもあるから、

ゆっくりしていってね。